表題作「箱の夫」を始め8つの短編を集めた作品。
主婦や妻の視点で淡々と語られる物語が多く、不気味な話が多い。その不気味さ加減が非常に素晴らしい。
例えば表題作「箱の夫」
夫は、箱に収まってしまうほど小さく、爪は黒く長く、頭頂部がべったりと扁平で平であり、柔らかい毛を持ち、シューと言う音を出す。湾曲した長い前歯を2本持っている。人間であるのかさえ疑わしい記述だが、夫は在宅でパソコンを使って仕事をしているらしく、バッハを好むようだ。
夫の「異常さ」を妻は特別気にしていないようで、夫に関する描写は全く淡々としている。その「平常さ」(=異常を異常と認識していないさま)が、非常に不気味である。
夫と「魔笛」のコンサートにいくことになり、妻は夫をどんな箱に入れて行くべきかを、主婦らしくあれこれと悩む。こういった細部がまことにそれらしい。
コンサート後、夫は外出に興味をもったらしく、妻がスーパーに買い物に行く時に連れて行くように迫るようになる。
自転車で買い物に行く妻は、箱に入れた夫をカゴに載せてしまえば荷物が載らなくなってしまうと悩むのだが、ある時夫に根負けし、箱へ入れてスーパーへと連れて行く。
ところがスーパーの出口で人とぶつかり、勢い夫を入れた箱を落としてしまう。箱の中でぐったりとしている夫。
救急車で病院へと運ばれ治療を受けるが、夫の容態は芳しくない。
夫は赤ん坊のような声で泣き、哺乳瓶からミルクを飲む。夫は幼児へと戻ってしまったようである。
姑曰く、こんな事態は「3回目か4回目」で、治るのに「1週間かかるか半年か」はわからない...。
ちなみに最もお薦めしたいのは「天気のいい日」という短編。
「えっ?!」と驚く展開と結末で、謎の多い不気味な作品である。